2013/3/25
厚労省的節約術!?生活保護制度改悪への道(『POSSE vol.16』)

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POSSE vol.16


2012年は5年に1度の生活保護基準見直しの年であり、厚生労働省をはじめとして多くの場で生活保護制度について議論がなされました。そして、片山さつき議員らによる芸能人の生活保護「不正受給」問題にはじまり、数多くのメディアで「不正受給」が取り上げられています。


生活保護受給者は、年々増加しており、2012年11月の時点で受給者数が214万7千人を超え、世帯数では156万7千世帯となっており、どちらも過去最高を更新し続けています。 一方、生活保護利用世帯数195万2063件に対して不正受給件数は2万5355件です(2010年度)。これは全体の0.38%にあたり、全体の割合からすればほんの一部でしかありません。


ところが、その「仕事」において発生する「労働問題」を正面から扱った作品はそれほど多いとはいえません。


報道では、特に親族への説明義務について、「人気芸人の母親が生活保護を受けていたことが社会問題化したこと」が背景にあるとされています。しかし、母親は不正受給をしていたわけではないのに悪者の烙印を押され、さらに芸人自身も不正を働いたわけではないのに謝罪をしています。それが生活保護制度の見直しにつながるとは、まったく筋の通っていない事態に発展しているといえます。『POSSE』16号で紹介した舞鶴市での事例のような「水際作戦」が正当化し、本来は適正な受給者であるにもかかわらず、対象から外されてしまうケースが増えるのではと懸念されます。


POSSEが相談を受けた舞鶴市の案件では、相談者は生活保護の申請書すら渡してもらえませんでした。また、所持金が600円で3人の子供を抱えたシングルマザーというかなり窮迫した状況にもかかわらず、すみやかに職権をもって保護を開始しませんでした。これは生活保護法第25条 (「保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもつて保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならない。」)に違反しています。


そのうえ、同一世帯ではない男性(相談者は妊娠中であり、その父親とされる男性)を世帯構成員に含めなければならないなどと、全く法的根拠のないことまで要求してきました。現在議論されている生活保護制度の見直し案については、本当に困っている人を助ける制度でもなければ、困窮することを防ぐための対策にもなっていません。厚労省の節約術は本末転倒です。本来であれば、本当に働くことのできる人が、安定した仕事に就き、社会参加できるようになることが必要で、それがひいては生活保護受給者の減少に結びつくはずです。


また、2013年3月には大阪市天王寺区で生活保護受給者が「不正受給」とみなされ、生活保護を打ち切られそうになるという事件が取り上げられました。この件は「不正受給」ではなく、後に区が誤りを認め、打ち切りを取り消しています。このように、現在「不正受給」といわれているものの中には、実際には「不正」ではないのに、「不正受給」とされているケースが存在しています。これは本来、適切に生活保護制度が運用されていれば防ぐことができたものです。「適正化」のもとに、生活保護受給者を取り締まるのではなく、福祉の専門的な知識を持つ職員をケースワーカーとして配置することが、本来の意味での生活保護の「適正化」にもっとも必要です。

(大阪市天王寺区のケースについては、『POSSE』18号で掲載します。また、3月4日に記者会見を行いましたので、詳しくは京都POSSEブログをご参照ください。)


『POSSE』16号では、「生活保護『不正』の正体」と題して、生活保護バッシングの裏側にある事実と、人間らしい生活を取り戻すための提言を掲載しています。ぜひご一読ください。



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『POSSE』は日本で唯一の若者による労働問題総合誌として、2008年9月に創刊しました。NPO法人POSSEのスタッフが中心となり制作し、これまで16巻を出版、4年目を迎えました。労働・貧困問題をテーマに、現状、政策から文化までを論じています。

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