2013/1/16
介護における虐待問題に取り組んだ労働組合(『POSSE vol.16』)

このエントリーをはてなブックマークに追加


POSSE vol.16

2012年12月22日、厚生労働省が「平成23年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」を発表しました。

介護施設における高齢者虐待の件数が、2010年度の96件から2011年度の151件へと、1.5倍以上に増えています。このように、介護の現場では介護保険制度導入を契機として、事故や虐待といった問題が相次いでいます。


2012年夏に発行した『POSSE vol.16』では「『ブラック』化する介護・保育?」を特集テーマとして、虐待や事故も含めた福祉サービスの質の低下の背景に、サービス提供者が劣悪な労働環境の中で働いているという問題に着目しています。 そこで、このブログ記事では、『POSSE vol.16』掲載記事のなかから、鈴木一さんのインタビュー「崩壊した介護労働は再生するか――札幌地域労働組合と介護保険制度後の現場」の一部を紹介します。


鈴木さんは札幌地域労働組合の書記長として長年活動に携わり、他の地域では類を見ない規模の介護労働組合を結成し成果をあげてきました。インタビューでは、介護労働現場の劣悪な実態、そして労働組合の果たす役割について語っていただいています。


介護労働者は一般的に、正社員であれど「最低賃金に毛が生えた」程度の非常に低い賃金であり、なおかつ業務内容が過酷であるため、鈴木さんが「労働条件が悪いところだと、従業員が1年でほとんど半分くらい入れ替わってしまう」と指摘するように、労働者の定着率が非常に低いです。そのため、長期的に働き続けることによる技能の蓄積ができず、サービスの質が低下してしまい、そうした中での結果として虐待が起きています。


こうした状況を受け、札幌地域労組では、「自分たちが入りたいと思うような老人ホーム」を目指した実践を行なっています。特に画期的なのは、国内で初めて、会社との団体交渉によって腰痛休暇の取得を労働協約に定めるに至ったことです。介護現場では腰痛が原因で休んだり、辞めてしまう人が必ず出るが、疲労蓄積型の腰痛は労災認定が難しいのが現状です。そのため、万が一労災申請が却下されても労働者が救われるよう、この制度を考案したのです。


また、鈴木さんたちが春闘の労使交渉で力を入れたのも、腰痛休暇と有給休暇取得率の改善でした。介護労働の現場では「職員が休みを取れずイライラして働く実態」があることから、「賃金を上げることよりも有給休暇をきちんと取る体制があるかどうかが大事」と考えたといいます。多くの労働組合は春闘において賃上げを主な要求事項としがちですが、札幌地域労組では、労働者の働き方(健康・安全衛生)の改善を第一の要求事項としたのです。


ほかにも興味深い事例として、介護施設の建て替えに際しては、手すりや蛇口の位置、トイレの向きなど、介護現場から挙がった意見を積極的に取り入れるよう使用者側に求めました。労働組合の役割として、労働条件の改善にとどまらず、利用者が良質なサービスを享受できるよう、経営側に意見を出し、なおかつ意見が反映することができたのです。


介護の現場で起こる事故や虐待事件の背景には少なからず当事者の労働条件の劣悪さとそれに起因するストレスがあります。そうした事件・事故を未然に防ぎ、良質な介護サービスを提供できるようにするためには、どのような実践が必要なのか? 本インタビューではその主体として労働組合を位置づけています。労働組合の社会的役割やその可能性に興味がある方には一度読んでみてはいかがでしょうか。


(編集部ボランティア/大学生)



*********************************************
『POSSE vol.16』の目次はこちら
最新号『POSSE vol.17』発売中!
【→POSSEを購入する
【17号目次はこちら】

POSSEとは

『POSSE』は日本で唯一の若者による労働問題総合誌として、2008年9月に創刊しました。NPO法人POSSEのスタッフが中心となり制作し、これまで16巻を出版、4年目を迎えました。労働・貧困問題をテーマに、現状、政策から文化までを論じています。

Twitter&Facebook

Facebookページを開設しています。

『POSSE』編集長twitterアカウント@magazine_posse

Copyright(c) 2011 POSSE. All Rights Reserved.