労働契約とは他の取引と同じく、基本的には契約関係です。コンビニで商品を買う場合に店と消費者の間に上下関係がないように、労働契約も対等な取引であることが原則です。いやだと思う内容であれば約束しなければよいですし、会社もはじめに約束した内容を守らなければなりません。
このように法律上は対等であったとしても、現実には会社と労働者の間には大きな力の格差があります。会社から無理な内容の契約を押し付けられたりすることも多々あります。そこで労働法が定められ、一定の内容の契約が強制的に無効・修正されることになっています。また、法律に具体的に違法の定めがなくとも「常識」による修正が入る場合もあります。
つまり、労働契約においてはどんな契約でも許されるというわけではありません。一度約束したからといって何でも従わなければならないというわけではないのです。大切なことは、どこまで自分が守らなければならないことで、どこからは会社が「ズル」をしているのかをよく見極めることです。
まず国が強制する仕組みについて見ていきましょう。労働基準法・最低賃金法は国が定める労働条件の最低限を決めています。残業代の支払いが義務付けられているほか、最低限の時給、有給休暇の付与などが定められています。
これらの規定は会社と労働者の間でどんな約束をしようと強制されるものです。例えば「残業代が支払われないことに同意する」「時給は500円でかまわない」などの書類にサインしたとしても、これは法的にはまったく効果をもちません。
どんな文言で約束しようとも、残業代の請求権は存在し、時給500円の契約は最低賃金に置き換わります。
では、残業代や最低賃金のように具体的に法律に定められていない場合には、約束した内容を守るしかないのでしょうか。実は具体的に定められていない場合にも契約が無効になる場合があります。
例えば1年間の試用期間という約束は無効になる可能性があります。1年間も本採用されるかどうかわからない状態におかれる一方で、適正を見るのに通常1年間は必要ないからです。また3ヶ月間の契約を結んだ場合でも、契約更新の期待がありえる場合には3ヶ月間だけで契約を打ち切ることが認められない場合があります。
このように具体的に定められていなくとも、社会的に合理的な内容でない場合には法的な効果は生じないと考えられるのです。
以上のような具体的な法律や社会的な合理性に反していない場合、労働条件の内容は約束したとおりのものとなります。ここで大切なことはあくまでも「対等」に決めるのが労働契約ですから、約束に際しては会社の提示する条件を一方的にのむ必要はないということです。
とはいえ会社と労働者には力関係がありますから好き勝手に意見ができるわけではないでしょう。具体的な労働条件について、どのような交渉手段があるのかを知っておきましょう。
労働条件に納得がいかない場合、都道府県の斡旋という方法で話し合いの場を設けることができます。これは自治体職員が間に入り問題解決を促進していくというものです。ただし、これには法的な拘束力がありません。ただ会社との対立は決定的にならないというメリットがあります。
次に、より法的につよい効力を持っているのが労働組合法です。労働組合は働いている人、働く意思がある人は誰でも加入する権利があります。会社の中の組合でも、会社の外の組合でも自由に加入できます。
労働組合が行う交渉の申し入れの場合、会社は拒否することができず、誠実に話し合うことも義務付けられています。対等な立場で話し合うために法的に整備されている方法が、労働組合なのです。