『就活のバカヤロー』の著者である常見陽平氏が書いた最新作。構造的な視点も交えており、就活本の中ではかなりマクロな議論を展開する印象を受ける。
その分、浅薄な議論とは一線を画した就活攻略法がわかる興味深い本である。
この本を読み解くキーワードとなるのが「就活断層」だ。「就活断層」とは企業の求人と就活生の求職のミスマッチのことである。
この本では企業規模、性別、地域、学歴という視点から就活に生じている断層を読み解いていく。
企業規模から読み解く就活断層では、学生の大企業志向がクローズアップされる。特に筆者は就活ナビによって、
多くの学生から大企業にエントリーできるようになった構図を重視する。学生たちが大企業ばかりにエントリーし、落とされ、就活から脱落する現状のことである。
これに対して、筆者は中小企業と特に中堅大学以下の学生のマッチングを推奨する。そのために学内説明会、大学に送られる求人票の利用、OB訪問等を勧めている。
また、このように述べつつも、中小企業のなかにはブラック企業や独善的でワンマンな経営者が存在する点に注意を喚起している点にも注目したい。
そして、筆者は就活生に対して、物事を考え抜くことを求めている(難しい注文だとは思うが。)が、
この本のあり方自体がその筆者の考えに沿ったものになっているといえる。というのも、巷の就活本にありがちな「こうしたら絶対内定」みたいな提言は行わないのだ。
特に「女子の就活」という章などはその典型で、女子学生は「こうしろ、ああしろ」というのではなく、現在の客観的な「女子の就活」の状況を叙述し、選択の参考になる事例等を紹介し、
自分にとって最良な選択肢を自分で考えましょうという形式をとっている。
もちろん、この本の帯に「これを読めば内定が取れる」と書いてある割りには、具体的な即効性のある内定ゲット法に関する記述が弱いという批判もあるかもしれない。
だが、むしろ長期的に自分を磨いて内定をゲットする方法、自分で就職、就活について考え抜く手伝いに重きを置いていることは、誠実で好感が持てる。
どんな人でも「絶対内定」が取れるテクニックがあれば、誰も苦労しないし、そんなものはあるわけないのだから。
以前の著作の『就活のバカヤロー』に比べて、実践的で随分洗練された本になっている。イタい就活生に対する批判的なトーンもかなり弱まり、 就活生として読みやすい本に仕上がっている。就活をまだネタとして楽しめる大学1、2年生には『就活のバカヤロー』を、 現実的、実践的に就職、就活を考えたい大学3、4年生には『くたばれ!就職氷河期』を、読んでほしい。
【本の概要】
著者名:常見陽平
書名:『くたばれ!就活氷河期』
出版社:角川SSコミュニケーションズ
出版年:2010年9月