“君は同期で一番レベルが低い、クズの中のクズだ”
大学卒業を目前に控える中、就活で内定が決まった会社から突然呼び出されこのような言葉をかけられたとき、あなたなら一体どうするだろうか。 これは卒業間際にブラック企業から内定辞退の強要を受けた、とある就活生の記録である。
大学卒業を一ヶ月に控えた矢先、内定が決まっていた会社から突然呼び出され、面談を受けさせられる。そこで待ち受けていたのは、信じられないような仕打ちだった。
「君はクズだ」「君みたいなのにはまともな仕事は任せられない」「どうせ鬱になって辞めていくよ」などと会社の役員から数時間にわたって罵倒される。 まだ入社もしていないにもかかわらず、資格を5日以内に取るなどという無理なスケジュールを強制的に組まされ、実行できなければまた長時間拘束され叱責される。 自分の経歴を馬鹿にし、人格を否定するような言葉の数々。「君はうちには向いていない」「早く決断をした方がいい」会社側は言葉には出さないまでも、明らかに内定の辞退を迫っていた。
この面談は、周到に仕組まれたものだった。予め内定を多めに取り、後から必要でなくなった者は切り捨ててゆく。 会社側からの内定取り消しを行うと、会社はその補償金を払わねばならない。だが内定者側からの“辞退”であれば、会社は何の責任も負わなくて済む。このようなからくりだ。 しかも内定辞退を強要されたのは一人や二人ではない。
そのことに気付いた筆者は面談のショックから体調を崩しながらも、大学の就職課や行政の支援を受けながら、同じような面談を受けた他の内定者と連絡を取りあい、 ブラック企業に立ち向かう。はじめ企業は取り合おうとしなかったが、粘り強い交渉の結果、筆者側はついに企業からの謝罪文を勝ち取ることに成功する。ネットで企業の悪い噂が広まり、 次年度からの入社志望者が減ったことも影響したという。
企業の論理が社会に蔓延する現在、就活の中でこのようなブラック企業に出会うことは決して珍しいことではない。そんなとき一体すればいいのだろうか。
この本において筆者は泣き寝入りすることなく、大学や行政機関の助けを得ながら企業と戦って謝罪を得ることができた。この結果には、 問題に対してしっかりと声を挙げてゆくことの重要性が示唆されており、その点でこの本は評価できる。
ただ、今回のように企業側との交渉のために行政機関が積極的に動いてくれるというのは幸運に恵まれた非常に稀なケースであり、 多くの場合行政はほとんど手助けをしてくれることはない。大学の就職課も同様であり、そもそもその大学を卒業してしまえばそこで関係は断たれてしまう。その上行政の法的権限は「調停」というものに留まるため、企業が交渉そのものを拒否した場合は打つ手がなくなってしまうのだ。
そのような場合には、ユニオン(労働組合)や弁護士を頼るという手がある。例え企業に組合が無くとも、個人で加盟できるユニオンも存在する。 それらの組合と共に団体交渉を行って自らのキャリアを守ることをお勧めしたい。
【本の概要】
著者名:間宮理沙
書名:『内定取消!―終わりが無い就職活動日記―』
出版社:日経BP社
出版年:2010年3月