内定切りというのは、内定通知をもらった後、企業にその内定を取り消されて最終的に採用に至らないことをいいます。
この問題に対処するためには、基本的な法律関係を押さえることが重要です。内定通知をもらった段階で労働契約は成立しています。つまり、内定をもらった時点で、労働者としてその会社で働く権利があるということになります。ただし、その労働契約は4月1日付けを始めとしており、それまでは解約留保権、つまり企業側がある程度の裁量で採用を取り消すことのできる権利を持ったものだ、ということも認識しておきましょう。
解約権が行使できる場合というのは、内定通知をもらった時点において企業の方が把握することができなかった事実が発覚し、その事実があるがゆえに雇用が継続できない事態が認められるような場合です。それが社会通念上、客観的・合理的に相当でなければ、内定取り消しはできません。これは最高裁の判例で認められています。
一番分かりやすいのは、経歴や資格の詐称などです。本当は取得していない資格を取得していることにして採用された場合や、健康診断で重大な健康上の欠陥が見つかり、とても業務に耐えられないことが発覚した場合などです。そのほか、内定通知をもらった後に犯罪行為に類するようなことをしてしまい、会社の評判、社会的信用を落としたと認められるケースでは、内定取り消しが認められることがあります。
逆にいえば、内定を取り消すためにはそのくらいのハードルがあるのです。リーマンショック以降、よく不況で経営状態が悪化したために内定を取り消すというケースがみられますが、基本的に認められません。企業は採用計画を立てたうえで人員を募集するわけですから、内定通知を出してからわずか4月1日までの間の変化を予測できなかった企業側に責任があります。また、厚労省がなるべく内定取り消しをしないようにと指針を出しているなかで、回避する努力を怠ったまま内定取り消しをおこなうことは認められません。
労働契約が成立しているので、その義務の履行を求めることです。内定取り消しを撤回し、就業させろと主張することですね。では具体的にどう求めていくか。会社に抗議するというのも手ですが、一人で会社を相手に戦うのは限界があります。そこで、大学の就職課でお世話になった人に相談して、大学の職員などに協力してもらうのがよいと思います。特に大学の就職課というのは就職支援を仕事にしているわけですから、そういう事態が生じては自分の大学の就職率の低下に直結してしまい困るのです。大学が動くと社会問題化するという意識もあるので、企業に対してもプレッシャーになると思います。
それでも難しいという場合には、事実上の圧力ということでユニオンに入り「内定切りの取り消しをしろ」と交渉をするのがよいでしょう。それも上手くいかなかったら弁護士に相談して地位保全の仮処分、地位確認の訴えという手段を取るとよいと思います。
会社からの内定通知が一番重要です。それ以外にも、誓約書や労働条件通知書も証拠になります。郵送で送られてきた場合にはすぐにコピーをとっておき、それを保管しておきましょう。企業によってはその場で書かせてすぐ回収というケースもあるそうなので、その場合には「大学の就職課に報告しなければならないので、写しを貰いたい」と担当者に頼むとよいでしょう。
ポイントとなるのは、「入社を承諾します」「入社してもらいます」「採用が決定しました」などの文言があるかどうかです。内々定の場合には、内定式をおこなうので、内定式の日付や時期が入っているかというところをチェックしてほしいです。その辺が曖昧な場合は、メールなどで確認してレスポンスをもらうようにしましょう。企業も採用したくてその学生に内定を出しているはずなので、就業するという労働契約を成立させるかどうかのイニシアチブは学生側にあります。その地位を最大限に利用し、「採用ありがとうございます」というように問い合わせれば何かしらのレスポンスはあるはずです。
非常に厳しい時代なので、なかなか大変な状況もあると思います。そこで、やはり就業先を複数持っているというのは重要なことだと思います。いざというときのために、スペアとして別の企業に就職活動をしておくのはひとつの手段でしょう。しかし、なによりも内定切りなどに遭ったときには、一人でも多くの仲間がいることが重要です。ユニオンに入るというのもよし、就職のときにお世話になった人に相談するのもよいでしょう。とにかく一人の問題にしないで、共有する仲間や人との繋がりを作るということが重要です。